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建築史部会 お知らせ

【建築史部会】第8回建築史部会研究会報告

更新日時:2023.03.31 00:00


2023年3月31日

建築史部会では、青柳憲昌『日本近代の建築保存方法論―法隆寺昭和大修理と同時代の保存理念』の書評会を開催した。

 

日時:2022年12月3日(土)13時30分~17時

会場:大阪科学技術センター404号室

参加者:41名

主催:日本建築学会近畿支部建築史部会

後援:日本建築学会建築歴史・意匠委員会日本建築史小委員会

書誌情報:青柳憲昌『日本近代の建築保存方法論―法隆寺昭和大修理と同時代の保存理念』(中央公論美術出版、2019年)。

 

プログラム

趣旨説明:鈴木智大(奈良文化財研究所)

講 評:前川 歩(畿央大学)

回 答:青柳憲昌(立命館大学)

コメント:清水重敦(京都工芸繊維大学)

総合討議

司会:安田徹也(竹中大工道具館)

 

本会は2020年度の開催を予定していたが、コロナウィルス感染症拡大の影響により延期を重ね、2022年度の開催となった。

研究会では、はじめに前川氏より青柳氏の著書について、目次構成、目的意識の所在、研究成果と意義を確認したうえで、保存修理における完全性と一過性、明治・大正修理と昭和修理の連続性と不連続性、「時間の経過」に対する価値観を巡って論点の提示がなされた。

これに対して、著者の青柳氏より回答をおこなった。そのなかで永久保存を目指した近代的保存理念の対極にある「姑息的修理」も、近代の保存修理が解体修理を前提に提示されていること、修理工事にあたる主体が「建築家」から「修理技術者」へと転換すること、修理工事に際して修理当事者による主体的な解釈の必要性が不可欠であったこと、などが確認された。

両氏の議論を踏まえ、清水氏より総評がなされた。法隆寺の昭和大修理における復原を巡る議論の経緯を精緻に分析し、今日の建造物修理における復原の理念の起源を明らかにした点を高く評価したうえで、青柳氏が復原を巡る理念と保存修理の理念を同一視すること、青柳氏が「復元主義」を高く評価することなどについて疑問を呈した。

清水氏の総評につづいて、安田氏の司会進行により、総合討議をおこなった。討議を通して、文化財修理と同時代の建築観が相互に影響していたことなどが確認できた。一方で、「復元主義」に対する評価を巡っては、前川・清水両氏による疑問に対して、会場の修理技術者らからの同調もあるなかで、青柳氏は建物に対して解釈を加える「復元主義」の意義を改めて強調された。

本会を企画し、報告をまとめた筆者も、「復元主義」に対して疑義を抱きながらも、自らが、いわば反「復元主義」者として、歴史的な経緯に立脚していることに想いを巡らせることとなった。今回の議論はほぼ平行線をたどったと思うが、今後も議論を継続することで、新たな保存修理の考え方が生まれる可能性があるだろう。

(文責:鈴木智大)

 

 

総合討議の様子

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