更新日時:2019.03.15 00:00
2019年3月15日
建築史部会では、日本木材学会木質文化財研究会(代表幹事:高妻洋成)との共催にて、「歴史的建造物の自然科学分析における学際研究の接点を探る」と題した研究会を開催した。
日時:2019年3月9日(土)13時30分~17時
会場:大阪科学技術センターB102号室
参加者:54名
プログラム
発表:横山操(京都大学)
「歴史的建造物における用材の樹種識別」
発表:星野安治(奈良文化財研究所)
「歴史的建造物における年輪年代学の応用~現状と今後の可能性」
コメント:山岸常人(京都府立大学)
総合討議
司会:高妻洋成・鈴木智大(奈良文化財研究所)
本研究会は、歴史的建造物を対象とした自然科学分析で得られる知見を、建築史研究に位置づけることを目的として開催した。自然科学分析の当事者と建築史分野の研究者・技術者らが、各々の研究手法と問題意識を相互に理解し、解決するべき課題を共有することを目指した。
横山氏は、歴史的建造物の木部材から切片を採取し、顕微鏡を用いて樹種を識別する手法とその限界を示した上で、これまでおこなってきた個別調査の成果を紹介した。また調査の過程で面した、時代・地域・社会集団が個別に認識する樹種と植物分類上の樹種のギャップから生じた諸問題を提示した。さらにVOC(揮発性有機化合物)測定など新たな樹種識別手法の可能性を述べた。
星野氏は、年輪年代学について、その具体的な手法と確立の経緯を示した上で、方法論の客観性を担保するための分野としての取り組みを紹介した。また薬師寺東塔における調査に基づき、限られた数点ではなく、より多くの部材を測定の対象とすることの重要性を提示した。さらに出土遺物を対象にした同一材の特定や木取りの分析手法の有効性と、歴史的建造物への適応の可能性を述べた。
山岸氏は、両氏の発表について、知見を得るための手法や今後の課題とその展望に関する建設的な手順を評価した。その上で、建築史研究や歴史的建造物の修理に携わる側が、自然科学分析で得られる知見のみで建造物を評価するのではなく、様式・技法・風食・目視による樹種判断など、これまでに蓄積されてきた建造物の総合的な評価手法に対する相対的な情報として理解することの重要性を指摘した。
つづく総合討論では、目視による樹種鑑定手法の体系的なガイドラインや統計学的な数値を歴史学において用いる際の説明手法の確立などを巡り、活発な議論が交わされ、継続的な取り組みの必要性が訴えられた。
(文責:鈴木智大)
研究会の様子