更新日時:2015.09.07 00:00
近代建築部会から、平成 27年 9月7日付で、下記の 「大丸心斎橋店本館の建て替え発表に対する声明」を発表しましたので、お知らせいたします。
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平成 27年 9月7日
一般社団法人 日本建築学会
近畿支部 近代建築部会
主査 笠原一人
大丸心斎橋店本館の建て替え発表に対する声明
去る平成27年7月24日、J.フロントリテイリング株式会社より、「株式会社大丸松坂屋百貨店大丸心斎橋店本館の建替え及びこれに伴う特別損失の計上に関するお知らせ」が発表されました。その中で、建築家ウィリアム・メリル・ヴォーリズが設計し、1925年から33年にかけて竣工した大丸心斎橋店本館の建物を「建替え」るとしています。
当該建物につきましては、平成26年5月20日付で日本建築学会および日本建築学会近畿支部より、J.フロントリテイリング株式会社および株式会社大丸松坂屋百貨店に対して、「大丸心斎橋店本館の保存活用に関する要望書」を提出しました。その際、日本建築学会近畿支部近代建築部会による「見解文」を添付し、当該建物についての歴史的文化的価値について詳細に記し、それらの価値を守り継承することを要望しました。
しかしながら、このたびのJ.フロントリテイリング株式会社による発表内容は、先の要望書に記した歴史的文化的価値を踏まえないものとなっています。周知の通り、当該建物は、大阪のみならず我が国を代表する近代建築の名作であり、現在の姿を末永く後世に継承すべきものです。このままでは、当該建物の歴史的文化的価値は大きく損なわれてしまうことになります。
そこで、「声明文」という形で、以下にJ.フロントリテイリング株式会社による建て替えの問題点を指摘するとともに、改めて当該建物の価値を記すことにいたします。
このたびのJ.フロントリテイリング株式会社による発表では、「御堂筋側の外壁を残す方向で検討を進めて」、建て替えるとしています。言い換えれば、外壁の一部は残すものの、ヴォーリズがデザインしたオリジナルの装飾などが現存する建物の内部を残さない形で、建て替えを進めようとしていることを意味しています。しかしそれでは、当該建物の歴史的文化的価値は大きく損ねられることになってしまいます。
日本建築学会近畿支部近代建築部会がまとめた前述の「見解文」では、当該建物の外観と内部のデザイン上の価値について詳細に論じた上で、次のように記しています。「このように、建物の内外にわたって、非常に密度が高くかつ洗練されたデザインの装飾が、様々な材料を用いて施されている点に大きな特徴がある。いずれも過去の様式の模倣になっておらず、他の建築に見ることができない独自のデザインによるものである。巨大な工芸品のような見事な建物だと言える」。つまり、当該建物の歴史的文化的価値は外観とともに内部にあります。
また、今後の当該建物のあり方について、「今後も、建物に多少の手が加えられることがあったとしても、従来通り使われ続けることが望ましい。特に、竣工時の姿を十分に残している外壁や塔屋、また1階から2階にかけての室内は、エレベータや階段周り、天井面に至るまでの見事な装飾を含めて、現在のまま維持し続けることが望ましい」として、外観とともに内部についても、オリジナルが現存する部分をそのまま残すべきであると記しました。
当該建物の内部空間には、非常に高い歴史的文化的価値があります。ヴォーリズによってデザインされた非常に緻密な、そして様々なスタイルを織り交ぜた独自のデザインが、内部の至るところに残されています。これこそが、当該建物の歴史的文化的価値を非常に高めており、壊されてしまえば二度と取り戻すことはできません。たとえ、内部の装飾の一部を建て替え後の建物の一部に移設したり、同じデザインで再現したりしても、それはあの時代に造られた本物ではなく、偽物を残したことになってしまいます。オリジナルの場所に、オリジナルの材料で、オリジナルのデザインで、オリジナルのプロポーションで現存していることが、継承されるべき建物の本物の姿です。移設されたり再現されたりすれば、本物の価値やその輝きは失われてしまいます。
また都市的な観点から見ても、当該建物の内部は守られるべきです。都市的な観点から歴史的な建物を評価する場合、しばしば建物の外観だけを守ろうとしがちです。このたびの建て替えでも、都市的な観点からメインストリートに面した外観だけを残そうという意図が感じられます。しかしながら、言うまでもなく、都市とは立体的なものであり空間です。建物の外観だけを守ることが、御堂筋の景観を守ることではありません。建物の内部まで含めて都市空間であり、内部の魅力により当該建物に多くの人々が来館するのであれば、内部こそが御堂筋という都市空間のにぎわいを作り出していると言えます。つまり、建物の内部も都市の景観の一部だと言えます。
当該建物は1920年代から30年代にかけての活気ある大阪という都市とその文化の象徴となる建物であり、現在も百貨店として生き続け、多くの人々を魅了する建物です。この時代に建設された建物で大阪に現存するものはもはや数少なくなりましたが、その中でも最大規模の、そして最高の質を持つ建物です。そして、我が国にとっても極めて重要な近代の文化遺産です。外観だけではなく内部も含めたオリジナルの価値、本物がすべて残されるべきです。
J.フロントリテイリング株式会社および株式会社大丸松坂屋百貨店に対して、改めて当該建物の建て替えについて検討し直していただき、建物の歴史的文化的価値の全体が残るような形で建物を使い続ける方法を探っていただきますよう、要望いたします。
以上