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設計・計画部会 お知らせ

2014年度講演会「地域資源の持続性を考える」の報告

更新日時:2015.02.18 00:00


    設計・計画部会では、1月24日に京都府与謝郡伊根町伊根町福祉センターにおいて、2014年度講演会「地域資源の持続性を考える」を開催しました。当日は、建築学会会員の他、地元の方、舟屋に興味を持つ方、将来伊根に移住したいと考えておられる方など40名を超える皆さまにご参加いただきました。

    シンポジウムの開会に当たり、パネリストである伊根町に移住された方のご紹介など多大なご協力をいただいた伊根町教育委員会教育長・石野 渡先生にご挨拶をいただきました。 

 

 

    第1部では、京都華頂大学教授・川島智生先生に「見出された舟屋集落の伊根 -まなざしの変容-」、若狭湾舟屋文化圏域研究会代表、風土建築設計集団主宰・下田元毅氏に「漁村集落の空間構成と暮らしの持続性」と題する講演をいただきました。

 

    川島先生は、京都府総合資料館に保存されていた伊根町の資料を分析し、伊根町の景観形成過程や伊根町の舟屋が広く知られるようになった経緯について紹介されました。

【講演概要】

    まず現在の伊根の舟屋の景観が、1950年代に形成されたことを論じ、その背景に次の3点があったことを指摘した。

  1. 京都府による昭和一桁代の道路拡幅であり、その時に土蔵と舟小屋は道路敷になり、船小屋は海側に突き出ることになる。舟屋形成の物理的な要因となる。
  2. 昭和20年代のブリ景気にあって、舟屋や主屋、土蔵の建設ブームが起こる。
  3. 昭和30年以降漁網の化繊化にあって、網を干す必要がなくなり、船小屋の囲い込みがはじまり、家屋化につながる。続く1960年代に入ると、昭和36年以降機業景気がはじまり、舟屋の一階に機織り機が据付けられ、昭和44年頃からFRP製の船が出回り始め、乾かす必要がなくなった。

    次に1960年代以降、外部からまなざしが降り注がれ、観光地として成立する経緯を検証した。昭和40年に若き建築プランナー地井昭夫による着目がはじまり、神代雄一郎のデザイン・サーヴェイなどによって全国の建築家に知れ渡る。昭和50年頃より観光化が進展し、平成5年に伊根町舟屋群等保存検討委員会が設置されると同時に、NHK朝の連続ドラマ「ええにょぼ」での舞台となり、全国に知られる。

 

  また、下田氏は、日本各地の漁村集落の伝統的な景観が、漁業の衰退によりその失われつつある現状について紹介されました。

【講演概要】

    伊根浦は、全国に6,298地区存在する漁村で唯一重要伝統的建造物群保存地区に指定されている集落である。多くの漁村が漁業従事者の減少、少子高齢化、空き家空地の問題等を抱え生業、それに伴う景観の持続性が困難な状況であるが、舟屋という地域資源の活用媒体が存在するという意味においては、全国の漁村集落のなかで伊根浦は恵まれた状況下にあるとも言える。

    講演では、三重県の鳥羽エリア、和歌山県海南エリア、愛媛県の佐田岬エリアの漁村集落のみることのできる風土の根付いた民家、道、石積み、墓地等の造形を紹介しながら、生業によって担保されてきたこれらの造形の持続が危ぶまれていることを説明した。

    伊根浦が舟屋という地域資源を活用し、舟屋が残る若狭湾域の集落と連携することで全国の漁村の活性化を担う先進事例となりうるのではないか。

(写真:三重県鳥羽市神島に見られるセコミチ)

 

 

    第2部では、他の地域から伊根に移住して生活をしている夏苅昌朗さん(漁師)、高橋貴誠さん(食事処・呑み処『なぎさ』経営)、橋本吾道さん(台湾茶専門店『靑竈』経営)にご登壇いただき、設計・計画部会主査の川窪(大手前大学)の司会で伊根に移住してきた動機、伊根に移住した方法(どのように家を見つけたのか)などのお話をうかがいました。

 

 

    移住のきっかけとなった伊根の魅力について、商売をされている高橋さんと橋本さんが「舟屋の魅力が移住のきっかけとなった。」と語られたのに対し、漁師をされている夏苅さんは「延縄漁をする漁師になりたいと調べたところ、それができるのは日本全国で伊根しかなかった。伊根は観光地としてではなく、やはり漁村としての魅力が一番である。」と語られました。夏苅さんのお話は、舟屋が一次産業である漁業の上に成立したものであることを改めて気づかせてくれました。このような移住者の方の生業による移住のきっかけの違いは、今後の伊根の在り方を考える上でも貴重なご意見となりました。

    また、移住された方からは、家を探すのに苦労した経験から「空き家が多い伊根町に移住を希望する人は多い。それなのに住む家が見つからず、移住が難しいのが現状である。地域住民と行政とがタイアップして、伊根町役場が運営する空き家バンクへの空き家登録を増やし、他地域からの受け入れを進めてほしい。」という意見が出ました。会場の地元の方からは同意する意見も出ましたが、「移住者が入ってくる不安を感じることがある。」という意見も出ました。

    なお、このシンポジウムは、1月25日付けの京都新聞に紹介されました。(記事)